「働き方改革」ってなんだろう
  ~特別養護老人ホームしゃくなげ荘の挑戦~

前回に引き続き、特別養護老人ホームしゃくなげ荘の山本施設長へのインタビューをお届けします。
業務改善として挑み続けていることや、その先にあるものについてお話を伺いました。


ICT化が人手不足解消をもたらした

前回お伝えした業務改善にかける思い。その具体的手腕は、ペーパレス化や、ICT化の面でも発揮されています。

その一例として、従来の紙の出勤簿をやめ、勤怠管理をデータ化することで、現場職員の負担も、事務処理の煩雑さも減らすことに成功。
また、施設内にWi-fi を整備し、ナースコール、呼吸数や心拍数、実績記録をモバイルから確認できるようになりました。
デジタルネイティブ世代にとっては紙やパソコンより、スマホなどのモバイル端末がなじみが良いという現状を、「今時の若い者は…」と渋い顔をしないところが山本施設長の柔軟なところ。
逆に、若い職員が機嫌よく働けて便利なものなら、導入しない手はない、と明快な論理でお話くださいました。

実は、しゃくなげ荘では、毎年継続して新卒採用が行われています。
おかげさまで人手不足で困ったことはない、と胸を張る山本施設長。
介護業界では人手不足が常態化している中、これはかなりすごいことです。
36年前は定員50名の施設に対し、常勤職員が12名程度だったしゃくなげ荘も、現在では27名を擁するまでになりました。

--とはいえ、いきなりのICT化、年齢層高めの職員さんにもすんなり受け入れられたのでしょうか?
「全然抵抗がないというわけではなかったですけどね。 でも女性の多い職場なので、女性の現実主義的な部分と割り切りの部分が活かされましたよね。『慣れてみたら、あら良いじゃない』っていう。あとは、新人採用が功を奏したと思います。」

既存職員の柔軟さに加え、若さが合理化を後押し。
その結果、集まる人が増える。
人件費を減らすための合理化ではなく、人が集まるようにするための合理化であることがわかります。
つまり、
人手があれば、利用者一人一人にかけられる時間も生まれる。
忙殺されることも減れば気持ちにゆとりができる。
そうすると、ケアの質が向上する。向上すれば社会的評価が上がる。
既存の職員も辞めないし、働いている人の満足が、次の採用を運んできてくれている。
離職率が低いということは、安定して経営ができる。
このようないい循環が生まれているということですね。


合理化してはいけないもの。それはひとの気もち。
看取り介護(ターミナルケア)を考える。

介護業界に長年いらっしゃる方はご存知のことですが、実は1990年代まで、介護施設で看取り介護を行うことはできませんでした。
終末期になると、長年入所されていた利用者も病院に移され、施設でお別れをすることが叶わなかった時代が長く続いていました。
現在では介護保険制度も改正され、2006年からの看取り介護加算が創設されました。それに伴い、介護施設での看取りは年々増加傾向にあります。
しゃくなげ荘でも、同年から看取り介護が開始され、2019年度で20名程の看取り介護を行いました。

「業務改善の根っこの一つはここです。『看取りをちゃんとできる施設』であるためにはどうしたらよいか。
その問題にエネルギーを割くためにも合理化が必要だったのです。」

「生活の場」で最期を迎えられるように。
本人の意向に沿った最期が迎えられるように。
一言でいうのは簡単ですが、「死」と対面するには相当のサポートとエネルギーがいります。
しゃくなげ荘では、開始当初から現在に至るまで、自主委員会を中心に勉強会を行うなど知識と技術を高めるとともに、一人一人に合った介護を考えているそうです。

さらに、ここしゃくなげ荘の介護への姿勢には、「ライフタスク」(※詳しくはアドラー心理学をひもといてみてください。)が丁寧に噛み砕かれた形で実践されているように感じました。
「『ありがとう』だとか『あなたはあなたのままでいいんだよ』だとか、気持ちを示しましょうと言われても普段はなかなかできないでしょう? でもこれが「仕事」となればハードルをさげてできる。」
普段からこのように「だからちゃんと伝えなきゃだめだぞ」とお話されているそうで、ここから、他者を意識し、「仕事」という共同作業に参加するという意識をもてば、面倒くさいという言い訳は不要になる、という人と人とのつながりを大切にした姿勢を感じることができます。
だからこそ、
「家族も病院も納得のいく看取り介護を目指しています」という山本施設長の言葉には、今までの実績と経験に基づく力強さがあり、ご本人やご家族ではない、赤の他人である私まで安心を感じました。
これからもますますのご発展を願うばかりです。

アロマ

先進技術の導入と共に特徴的なのが、アロマテラピーの導入。次号でもお伝えしますが、勉強会やコミュニケーションテラピスト取得など、積極的に活用されています。

※看取り介護の事例分析については、公立大学法人岩手県立大学との共同調査としてまとまったものがHP上にも掲載されています。こちらもぜひご覧ください。
http://www.shikaoi-keiaikai.jp/shakunage/approach/mitori_research/


しゃくなげ荘の挑戦についてはまだまだ続きます!
次号では現場で介護にあたる職員さんの生の声をたっぷりとお伝えします。乞うご期待!